エレメンタル・ストーリー ~1-15~
(15)
――現在、松下有貴――
「……なんで来たんだ?」
「え?」
気づいたら俺はそう呟いていた。
明日香に助けられてなかったら、俺は死んでいたかもしれないというのに、俺の口から出たのはそれに対するお礼ではなく非難だった。
「俺は『来るな』と言ったはずだ。今のあいつは……本当に危険なんだぞ」
「で、でも……」
俺は立ち上がりながら、さらに言葉を続けようとする。
それを俺の肩を見ていた早川が遮る。
「ところで、有貴くんの肩に乗っているこの子、なんなの?」
「そ、そうよ! せめてそれだけでも説明しなさいよね」
「……え?」
今の言動に俺は驚いた。早川ではなく、明日香の言葉に、だ。
「あ、明日香。お前もこいつが見えるのか?」
俺は右肩に乗っているユキッチを指差して言う。すると、明日香は呆れた声で、
「はあ? 何寝ぼけたこと言ってんのよ? そんなことより、その子のこと、はやく説明しなさいよ」
ユキッチを指差した。俺はその返答にさらに驚いた。
「…………ってことは」
まさか、明日香も……
「アスカも所持者だよ」
俺の予想に対してユキッチがはっきりと頷いた。
「そ、そうか……。でも、その説明は後だ」
衝撃の事実が判明したが、今はそんなことに気をとられている場合じゃない。
「所持者が二人か……。減った精神力を補うにはちょうどいいな」
なんたって、まだ危機は去っていないのだから。
「……ちっ」
俺は舌打ちすると東に向き直り、後ろにいる二人をちらっと見る。
どうすればいいんだ……。
さっきは運よく逃がせたけど、次も上手くいくとは限らない。……いや、俺の精神力はほとんど尽きているから、下手に逃がすと取り返しのつかないことになる可能性が高い。
やはり死ぬ気でどうにかしないと……東を一時的にでも止められないと、二人を無事に逃がすことなんて……
「……有貴。あんたまさか、あたしたちを安全に逃がす方法ばっかり考えてるんじゃないでしょうね?」
俺の考え込む様子を見て、明日香が声をかけてきた。
「ん? そうだけどそれが――」
ぱあん。
という乾いた音が響いた。
それは明日香が俺の頬を思いっきりはたいた音だった。
「明日香?」
明日香は手を振りぬいたまま顔を俯かせ搾り出すような声で言う。
「……あたしが、どうしてここに戻ってきたかわかる? あたしが……どんな想いであんたを助けに来たかわかる?」
「…………。」
「あんたがいつも一人でなんとかしようとするからよ!」
明日香の声は変わり果てた校庭に大きく響いた。
「……悔しいのよ。あたしだってあんたの力になりたいのに、あんたは助けを求めようとしない。いつもあたしは助けてもらってるのに、あんたを助けることもできないなんて!」
俺はこのとき、明日香が顔を俯かせているのは、涙を隠そうとしているからだと気づいた。
そして、今度は早川が俺の前に来て、
「有貴くん。私も手伝わせて。こうなったのも、そもそも私が東くんに襲われたからなんだから、それを全て有貴くんに押し付けるのは嫌だよ」
明日香と違い、俺の目を真っ直ぐに見て言った。……すぐに目を逸らされたが。
二人からそんなことを言われた俺はこう答えるしかなかった。
「……わかったよ」
「え?」
「ありがとう、有貴くん」
明日香は顔を上げ、早川は微笑んでいた。
……でも、どうするんだ? 二人はエレメンタルを持っていないし、女の子なんだ。
あまり無茶な囮役をさせるわけにもいかない。
「それなら、いい方法があるよ」
そう言ったのはユキッチだった。
「二人が戦うつもりなら、ひょっとしたらあいつに勝てるかもしれないよ」
「何、それは本当か?」
「い、いいから早く教えなさいよ!」
明日香は驚く俺を押しのけて、ユキッチに詰め寄った。
「いいかい。まず――――」
俺、明日香、早川は黙ってユキッチの話を聞いていた。
「――――という方法なんだけど」
ユキッチの話が終わると、俺たちは顔を見合わせ、
「そうか、それなら上手くいくかもな」
「そうね」
「で、でも上手くいくかな?」
早川が不安そうに言う。
「大丈夫よ。あたしが上手くいかせてみせる!」
それを明日香は力強い一言で吹き飛ばした。
「よし、やるぞ!」
「「うん!」」
俺たちは掛け声とともに今度こそ東のほうに向き直った。
「……作戦タイムは終わったか?」
「……ああ、待たせたな」
「な、なんなのよ……あの大きさは」
「そんな……」
東は別に俺たちを親切に待っていたわけではなかったようだ。
俺たちが話している間、ずっと力を溜めていたのか、東の頭上にはさっきまでのとは比べ物にならないほどの大きさの岩が浮かんでいた。
恐らく、今逃げても逃げ切れないだろう、それは校庭くらいの大きさの岩だったから。
「……あんなのくらったら、即死だろうな」
「そうだね……」
俺の呟きにユキッチが答えた。
さすがにあれをくらったら生きていられないだろう。
だが、俺はやられる気はなかった。今、この場には明日香と早川がいる。この二人を守るためにも、あの攻撃をせめて相殺ぐらいはさせなければならない。
できる、と思った。
いつも俺は一人だった。俺は一人で困難に立ち向かってきた。
それは自分のことに誰かを巻き込みたくなかったから。
でも、今は違う。俺は明日香と早川、二人の力を借りて困難に立ち向かおうとしている。
一人で立ち向かっていたときよりも幾分気が楽な気がする。
「………………っ!」
俺は両手を正面に突き出し、力を集中させた。
「「………………っ!!」」
その俺の背中に明日香と早川は手を当てて、俺に自分たちの精神力を流してくれている。
それは、とても暖かい力だった。
これがユキッチが提案した「勝つための方法」だった。
一人の精神力で敵わないなら、三人の精神力で立ち向かおうというのだ。
「うおおおおおおお!!」
俺は自分の力が高まっているのを感じ咆哮する。
東はまだ力を溜めている。恐らく、この一撃で決着をつけようとしているのだろう。
なら俺はそれに対応して、全力で迎え撃つだけだ。
俺の両手の前に超高密度のエネルギーが集束していく。
「っ!?」
そのエネルギーが強すぎたのか、俺の両手に激痛が走った。
手のひらが熱い。間違いなく火傷している熱さだ。
だが、俺はその痛みをこらえて構える。
「いくぞ、松下ぁ!」
東が叫ぶ。
「来い、東!」
俺はそれに叫び返す。
そして、俺と東は同時に力を解放する。
「“ギガ・ロック”!!!」
「“雷撃破”!!!」
さっきより強大な岩とさっきより強力な電撃の塊がぶつかりあった。
お互いの力は奇跡的に互角。今はつばぜり合いといったところか。
「いけええええええええ!!」
俺はさらに力を込めた。あいつの持つ邪悪な力を打ち破るために。
そして、
《ドゴオオオオオオオオオン!!》
押し切れるかと思った電撃は相殺される形で東が放った岩と共に大きな爆音を伴って爆発した。
爆風で校庭には激しい土ぼこりがたった。
「………………。」
爆音のせいで耳が少し痛かったが、俺はふらついた足取りで土煙の中へと進む。
まだ、終わっていない。東の持つエレメンタルをなんとかしなければ……
「東……」
煙を抜けると、俺の目の前には東が倒れていた。近くには、“岩”と刻まれたエレメンタルが落ちている。
どうやらさっきの爆発で、東の持っていたエレメンタルが吹き飛ばされたようだ。
その影響で洗脳が解けたのか、東は気を失っていた。
俺は“岩”のエレメンタルを拾い、それを破壊しようと力を込めた。
「……精神力を……使い……果たし……た……か……」
俺がそう呟くと足の力が抜け、俺の身体は地面へと倒れ伏した。
「く……そ…………」
俺は起き上がろうと力を入れるが、意思に反して俺の意識は徐々に遠のいていた。
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――現在、松下有貴――
「……なんで来たんだ?」
「え?」
気づいたら俺はそう呟いていた。
明日香に助けられてなかったら、俺は死んでいたかもしれないというのに、俺の口から出たのはそれに対するお礼ではなく非難だった。
「俺は『来るな』と言ったはずだ。今のあいつは……本当に危険なんだぞ」
「で、でも……」
俺は立ち上がりながら、さらに言葉を続けようとする。
それを俺の肩を見ていた早川が遮る。
「ところで、有貴くんの肩に乗っているこの子、なんなの?」
「そ、そうよ! せめてそれだけでも説明しなさいよね」
「……え?」
今の言動に俺は驚いた。早川ではなく、明日香の言葉に、だ。
「あ、明日香。お前もこいつが見えるのか?」
俺は右肩に乗っているユキッチを指差して言う。すると、明日香は呆れた声で、
「はあ? 何寝ぼけたこと言ってんのよ? そんなことより、その子のこと、はやく説明しなさいよ」
ユキッチを指差した。俺はその返答にさらに驚いた。
「…………ってことは」
まさか、明日香も……
「アスカも所持者だよ」
俺の予想に対してユキッチがはっきりと頷いた。
「そ、そうか……。でも、その説明は後だ」
衝撃の事実が判明したが、今はそんなことに気をとられている場合じゃない。
「所持者が二人か……。減った精神力を補うにはちょうどいいな」
なんたって、まだ危機は去っていないのだから。
「……ちっ」
俺は舌打ちすると東に向き直り、後ろにいる二人をちらっと見る。
どうすればいいんだ……。
さっきは運よく逃がせたけど、次も上手くいくとは限らない。……いや、俺の精神力はほとんど尽きているから、下手に逃がすと取り返しのつかないことになる可能性が高い。
やはり死ぬ気でどうにかしないと……東を一時的にでも止められないと、二人を無事に逃がすことなんて……
「……有貴。あんたまさか、あたしたちを安全に逃がす方法ばっかり考えてるんじゃないでしょうね?」
俺の考え込む様子を見て、明日香が声をかけてきた。
「ん? そうだけどそれが――」
ぱあん。
という乾いた音が響いた。
それは明日香が俺の頬を思いっきりはたいた音だった。
「明日香?」
明日香は手を振りぬいたまま顔を俯かせ搾り出すような声で言う。
「……あたしが、どうしてここに戻ってきたかわかる? あたしが……どんな想いであんたを助けに来たかわかる?」
「…………。」
「あんたがいつも一人でなんとかしようとするからよ!」
明日香の声は変わり果てた校庭に大きく響いた。
「……悔しいのよ。あたしだってあんたの力になりたいのに、あんたは助けを求めようとしない。いつもあたしは助けてもらってるのに、あんたを助けることもできないなんて!」
俺はこのとき、明日香が顔を俯かせているのは、涙を隠そうとしているからだと気づいた。
そして、今度は早川が俺の前に来て、
「有貴くん。私も手伝わせて。こうなったのも、そもそも私が東くんに襲われたからなんだから、それを全て有貴くんに押し付けるのは嫌だよ」
明日香と違い、俺の目を真っ直ぐに見て言った。……すぐに目を逸らされたが。
二人からそんなことを言われた俺はこう答えるしかなかった。
「……わかったよ」
「え?」
「ありがとう、有貴くん」
明日香は顔を上げ、早川は微笑んでいた。
……でも、どうするんだ? 二人はエレメンタルを持っていないし、女の子なんだ。
あまり無茶な囮役をさせるわけにもいかない。
「それなら、いい方法があるよ」
そう言ったのはユキッチだった。
「二人が戦うつもりなら、ひょっとしたらあいつに勝てるかもしれないよ」
「何、それは本当か?」
「い、いいから早く教えなさいよ!」
明日香は驚く俺を押しのけて、ユキッチに詰め寄った。
「いいかい。まず――――」
俺、明日香、早川は黙ってユキッチの話を聞いていた。
「――――という方法なんだけど」
ユキッチの話が終わると、俺たちは顔を見合わせ、
「そうか、それなら上手くいくかもな」
「そうね」
「で、でも上手くいくかな?」
早川が不安そうに言う。
「大丈夫よ。あたしが上手くいかせてみせる!」
それを明日香は力強い一言で吹き飛ばした。
「よし、やるぞ!」
「「うん!」」
俺たちは掛け声とともに今度こそ東のほうに向き直った。
「……作戦タイムは終わったか?」
「……ああ、待たせたな」
「な、なんなのよ……あの大きさは」
「そんな……」
東は別に俺たちを親切に待っていたわけではなかったようだ。
俺たちが話している間、ずっと力を溜めていたのか、東の頭上にはさっきまでのとは比べ物にならないほどの大きさの岩が浮かんでいた。
恐らく、今逃げても逃げ切れないだろう、それは校庭くらいの大きさの岩だったから。
「……あんなのくらったら、即死だろうな」
「そうだね……」
俺の呟きにユキッチが答えた。
さすがにあれをくらったら生きていられないだろう。
だが、俺はやられる気はなかった。今、この場には明日香と早川がいる。この二人を守るためにも、あの攻撃をせめて相殺ぐらいはさせなければならない。
できる、と思った。
いつも俺は一人だった。俺は一人で困難に立ち向かってきた。
それは自分のことに誰かを巻き込みたくなかったから。
でも、今は違う。俺は明日香と早川、二人の力を借りて困難に立ち向かおうとしている。
一人で立ち向かっていたときよりも幾分気が楽な気がする。
「………………っ!」
俺は両手を正面に突き出し、力を集中させた。
「「………………っ!!」」
その俺の背中に明日香と早川は手を当てて、俺に自分たちの精神力を流してくれている。
それは、とても暖かい力だった。
これがユキッチが提案した「勝つための方法」だった。
一人の精神力で敵わないなら、三人の精神力で立ち向かおうというのだ。
「うおおおおおおお!!」
俺は自分の力が高まっているのを感じ咆哮する。
東はまだ力を溜めている。恐らく、この一撃で決着をつけようとしているのだろう。
なら俺はそれに対応して、全力で迎え撃つだけだ。
俺の両手の前に超高密度のエネルギーが集束していく。
「っ!?」
そのエネルギーが強すぎたのか、俺の両手に激痛が走った。
手のひらが熱い。間違いなく火傷している熱さだ。
だが、俺はその痛みをこらえて構える。
「いくぞ、松下ぁ!」
東が叫ぶ。
「来い、東!」
俺はそれに叫び返す。
そして、俺と東は同時に力を解放する。
「“ギガ・ロック”!!!」
「“雷撃破”!!!」
さっきより強大な岩とさっきより強力な電撃の塊がぶつかりあった。
お互いの力は奇跡的に互角。今はつばぜり合いといったところか。
「いけええええええええ!!」
俺はさらに力を込めた。あいつの持つ邪悪な力を打ち破るために。
そして、
《ドゴオオオオオオオオオン!!》
押し切れるかと思った電撃は相殺される形で東が放った岩と共に大きな爆音を伴って爆発した。
爆風で校庭には激しい土ぼこりがたった。
「………………。」
爆音のせいで耳が少し痛かったが、俺はふらついた足取りで土煙の中へと進む。
まだ、終わっていない。東の持つエレメンタルをなんとかしなければ……
「東……」
煙を抜けると、俺の目の前には東が倒れていた。近くには、“岩”と刻まれたエレメンタルが落ちている。
どうやらさっきの爆発で、東の持っていたエレメンタルが吹き飛ばされたようだ。
その影響で洗脳が解けたのか、東は気を失っていた。
俺は“岩”のエレメンタルを拾い、それを破壊しようと力を込めた。
「……精神力を……使い……果たし……た……か……」
俺がそう呟くと足の力が抜け、俺の身体は地面へと倒れ伏した。
「く……そ…………」
俺は起き上がろうと力を入れるが、意思に反して俺の意識は徐々に遠のいていた。
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by yanagino-kiyohiko
| 2009-01-16 08:47
| 小説