エレメンタル・ストーリー ~2-3~
(3)
休日を休日として過ごせなかった俺の身体はさらなる睡眠を要求していたが、俺はそれをなんとか振り切って身支度を済ませ、奈緒とマンションのエントランスに向かった。
「あ、おはよー、有貴」
「おはよう、有貴くん」
そこには明日香と早川がいた。しかし、
「……あれ? 奏は?」
俺の親友である柏木奏の姿が見えなかった。
「なんか、用があるみたいで先に行ってるってさ」
俺の疑問に明日香が答えた。そして、それを遮るように、
「そ、そそそそれよりもどうして早川先輩がここに?」
奈緒が驚き半分、感動半分といった感じで早川を見て、そんなことを口にする。
……しかしこいつの反応、有名人が突然家にやってきた、みたいな反応だな。まあ、実際早川は校内では有名だが。
「えと……た、たまには明日香と一緒に学校に行こうと思ってね」
早川が誤魔化し気味に答える。
「そ、そうなんですか。そういえば明日香と早川先輩って友達でしたねー」
「…………。」
……それはいいのだが、その友達であるはずの明日香が微妙な顔をしているのはなんでだろうね?
「……じゃあ行こう、有貴」
「お、おい」
明日香がそう言って俺の右手を取って歩き出した。
すると、早川が後ろから追いかけてきて、
「うん、早く行こ」
満面の笑みを浮かべて俺の左手を取った。
……なんだろう、その笑顔が微妙に怖い。
「あ、ずるい!」
今度は奈緒が俺の背中に抱きついてきて、
「いくら早川先輩でも、こればかりはゆずれません!」
と、よくわからないことを言った。三人の女子(と言っても、一人は妹だが……)にしがみつかれて身動きがとれなくなってしまったうえ、女の子特有の匂いに頭がおかしくなりかけていた俺は、
「えーい、歩きにくいっての!」
そう言って三人から強引に逃れた。
女子にあまり免疫がないというのに、なぜこんなことになってるんだ? 俺
「そういえば、そろそろね」
あの後、しばらくは女子三人で話していたのだが、明日香が突然俺に話題を振ってきた。
「何がだ?」
俺はまったくピンとこなかったから、そう聞き返す。俺の返答に明日香は呆れ顔になり、
「『何』って来週のオリエンテーションのことよ」
「……あー、そうだっけ?」
特訓のせいですっかり忘れてた。
俺が通う高校は始業式・入学式の次の行事として、“全校オリエンテーション”というものがある。
内容はK高を出発しその周辺を1,2,3年の混合グループでいくつのチェックポイントを回り、また戻ってくる、という小規模なら小学生とかでもやれそうな行事だ。
しかし、そこは高校というか小学生には無理そうなルールが存在する。
まず、移動範囲が非常に広い。この行事はほぼ一日使ってやるから当然なのだが、大体半径20キロくらいあるのだ。
次に、ちゃんと順位がつく。早く戻ってこれたグループには結構豪華な賞品がもらえる。
つまり、ある意味でこれはサバイバルレースだ。
そして、チェックポイントがまた曲者だ。
配布される地図をよく見ないとわからない位置にある上、そこにある課題をクリアしなければ通過したことにならないのだ。
しかも、その課題も一筋縄ではいかない。
普通に数学の問題(難しい)だったり、体力勝負なもの(スクワットとか、腕立てとか……)だったりする。
……で、この行事、厄介なことに一グループに必ず1,2,3年がそれぞれ一人ずついなければいけないのだ。
これはこの行事が高校全体の親睦会を目的としているのが原因であるが、もし、どこかの学年が不足したグループになると、なんと、もれなく先生が一人そのグループに入ることになる。
俺は去年、とある2年の先輩のおかげで何の苦も無くグループを作ることに成功し、なんと6位に入賞した。ちなみに、賞品は購買部の一週間無料利用券だった。
「有貴はどうするの?」
明日香がいきなり顔を近づけてきた。そういう行動にあまり免疫のない俺は心臓の鼓動を若干早めながら、
「ああ、去年と同じで如月先輩と組もうと思ってるよ」
「じ、じゃああたしが入っても……」
「問題ないだろ」
去年もお前と一緒だったしな。
「よし」
俺の返答に明日香は満足そうに頷いた。
「に、兄さん、あたしは!?」
何故かそれを聞いて奈緒が慌てて俺に聞いてくる。
「あ、ああ……1年はお前にしようと思ってたよ」
「やった!」
奈緒がガッツポーズをして明日香を見た。
……さっきからどうも、明日香に張り合ってる節があるな。
「ゆ、有貴くん、私も入れてもらっていいよね?」
だから、さっきからお前らは何を張り合ってるんだ!
「ああ……別にいいよ」
「あ、ありがとう」
俺は半分投げやりに答ると、早川は嬉しそうにはにかんでいた。
そんな三人に今度は逆に聞き返した。
「……それならもう一人くらい誘ってもいいよな?」
俺のこの質問に三人は嫌な顔せず頷いてくれた。
多分、誰を誘うのかが分かっていたからだろう。
次へ
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休日を休日として過ごせなかった俺の身体はさらなる睡眠を要求していたが、俺はそれをなんとか振り切って身支度を済ませ、奈緒とマンションのエントランスに向かった。
「あ、おはよー、有貴」
「おはよう、有貴くん」
そこには明日香と早川がいた。しかし、
「……あれ? 奏は?」
俺の親友である柏木奏の姿が見えなかった。
「なんか、用があるみたいで先に行ってるってさ」
俺の疑問に明日香が答えた。そして、それを遮るように、
「そ、そそそそれよりもどうして早川先輩がここに?」
奈緒が驚き半分、感動半分といった感じで早川を見て、そんなことを口にする。
……しかしこいつの反応、有名人が突然家にやってきた、みたいな反応だな。まあ、実際早川は校内では有名だが。
「えと……た、たまには明日香と一緒に学校に行こうと思ってね」
早川が誤魔化し気味に答える。
「そ、そうなんですか。そういえば明日香と早川先輩って友達でしたねー」
「…………。」
……それはいいのだが、その友達であるはずの明日香が微妙な顔をしているのはなんでだろうね?
「……じゃあ行こう、有貴」
「お、おい」
明日香がそう言って俺の右手を取って歩き出した。
すると、早川が後ろから追いかけてきて、
「うん、早く行こ」
満面の笑みを浮かべて俺の左手を取った。
……なんだろう、その笑顔が微妙に怖い。
「あ、ずるい!」
今度は奈緒が俺の背中に抱きついてきて、
「いくら早川先輩でも、こればかりはゆずれません!」
と、よくわからないことを言った。三人の女子(と言っても、一人は妹だが……)にしがみつかれて身動きがとれなくなってしまったうえ、女の子特有の匂いに頭がおかしくなりかけていた俺は、
「えーい、歩きにくいっての!」
そう言って三人から強引に逃れた。
女子にあまり免疫がないというのに、なぜこんなことになってるんだ? 俺
「そういえば、そろそろね」
あの後、しばらくは女子三人で話していたのだが、明日香が突然俺に話題を振ってきた。
「何がだ?」
俺はまったくピンとこなかったから、そう聞き返す。俺の返答に明日香は呆れ顔になり、
「『何』って来週のオリエンテーションのことよ」
「……あー、そうだっけ?」
特訓のせいですっかり忘れてた。
俺が通う高校は始業式・入学式の次の行事として、“全校オリエンテーション”というものがある。
内容はK高を出発しその周辺を1,2,3年の混合グループでいくつのチェックポイントを回り、また戻ってくる、という小規模なら小学生とかでもやれそうな行事だ。
しかし、そこは高校というか小学生には無理そうなルールが存在する。
まず、移動範囲が非常に広い。この行事はほぼ一日使ってやるから当然なのだが、大体半径20キロくらいあるのだ。
次に、ちゃんと順位がつく。早く戻ってこれたグループには結構豪華な賞品がもらえる。
つまり、ある意味でこれはサバイバルレースだ。
そして、チェックポイントがまた曲者だ。
配布される地図をよく見ないとわからない位置にある上、そこにある課題をクリアしなければ通過したことにならないのだ。
しかも、その課題も一筋縄ではいかない。
普通に数学の問題(難しい)だったり、体力勝負なもの(スクワットとか、腕立てとか……)だったりする。
……で、この行事、厄介なことに一グループに必ず1,2,3年がそれぞれ一人ずついなければいけないのだ。
これはこの行事が高校全体の親睦会を目的としているのが原因であるが、もし、どこかの学年が不足したグループになると、なんと、もれなく先生が一人そのグループに入ることになる。
俺は去年、とある2年の先輩のおかげで何の苦も無くグループを作ることに成功し、なんと6位に入賞した。ちなみに、賞品は購買部の一週間無料利用券だった。
「有貴はどうするの?」
明日香がいきなり顔を近づけてきた。そういう行動にあまり免疫のない俺は心臓の鼓動を若干早めながら、
「ああ、去年と同じで如月先輩と組もうと思ってるよ」
「じ、じゃああたしが入っても……」
「問題ないだろ」
去年もお前と一緒だったしな。
「よし」
俺の返答に明日香は満足そうに頷いた。
「に、兄さん、あたしは!?」
何故かそれを聞いて奈緒が慌てて俺に聞いてくる。
「あ、ああ……1年はお前にしようと思ってたよ」
「やった!」
奈緒がガッツポーズをして明日香を見た。
……さっきからどうも、明日香に張り合ってる節があるな。
「ゆ、有貴くん、私も入れてもらっていいよね?」
だから、さっきからお前らは何を張り合ってるんだ!
「ああ……別にいいよ」
「あ、ありがとう」
俺は半分投げやりに答ると、早川は嬉しそうにはにかんでいた。
そんな三人に今度は逆に聞き返した。
「……それならもう一人くらい誘ってもいいよな?」
俺のこの質問に三人は嫌な顔せず頷いてくれた。
多分、誰を誘うのかが分かっていたからだろう。
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by yanagino-kiyohiko
| 2009-06-26 11:17
| 小説