エレメンタル・ストーリー ~1-4~
(4)
俺が奈緒と共にエレベーターで、マンションのエントランスに下りると、昨日と同じように二人の男女が待っていた。
「おはよう。有貴。今日も眠そうな顔しているね。」
「また遅くまで本読んでいたんだろ? 続きが気になるのはわかるが、ほどほどにしないといつかぶっ倒れるぞ。」
この二人は同じ高校に通う俺の同級生、風見明日香と柏木奏だ。
二人とも俺と同じマンションに住んでいて、それぞれ俺の両隣に住んでいる。
ここのマンションの通路が若干狭いため、このエントランスが待ち合わせ場所になっているのだ。
明日香は小学生のときから同じ学校で、いわゆる「幼なじみ」ってやつだ。まあ、俺にとっては、ただの「腐れ縁」って言ったほうがしっくりくるのだが……
そして奏は、中学のときにここに引っ越してきたやつで、イケメンと称されてもおかしくないルックスをしている。
たまたま、俺と波長が合って、中学時代では一番の親友となった。
……たまに劣等感に苛まれることがあるが、できるだけ考えないようにしている。
俺、奏、明日香、奈緒と、この4人で学校へ行くのが4月からの俺たちの登校スタイルだ。
実際、今までこの4人で遊ぶことが多かったから、こうなるのは自然な流れだった。
「昨日は読む暇もなく寝たよ」
「へぇー、何かあったの?」
「……あまり言いたくない」
とてもアホな理由だしな。笑われるのは確実だ。
「兄さんね。昨日、終電に乗り損ねちゃったんだよ」
なんで言っちゃうかなぁ……
……っていうか、なんでお前が知っている?
「アハハハハハハ。有貴、久しぶりにやったね! 終了式のとき以来だったから、そろそろだろうと思っていたけど」
明日香が大笑いしている。
隣にいる奏もこらえきれずに笑っている。
「やっぱりお前は数ヶ月に一回は大失敗するんだな。でも、ある意味すごいよな、一定の周期で不幸に見舞われるって。……ひょっとしたら呪いなんじゃないのか?」
そうなのだ。
なぜか二、三ヶ月に一度不幸な出来事が俺の身に降りかかってくるのだ。
それを「呪い」のせいではないかと考えたこともあったが、結局わからずじまいだった。
奈緒も腹をおさえて笑いながら、
「……に、兄さん、そこまでして笑いを取る必要はないんだよ? 兄さんには他にいいところがいっぱいあるんだから」
と同情を込めた目で言ってきた。
「狙ってやってるわけじゃねーよ」
俺は嘆息して言った。
……ったく、俺はお笑い芸人じゃないっての……
そう考えながら、俺は学ランのポケットに手を入れた。そのポケットには昨日拾った例の石が入っている。
さっき、自分の部屋を出ようとしたときに、俺はふと思い出したように振り返って、机の上に置いてあった石を学ランのポケットに入れたのだ。
そうしなければいけない気がした。おそらく、昨日の夢があまりにリアルだったからだろう。
まあ、別に荷物になるというわけでもないから、特に支障もないだろう。
「それで、補導とかされなかった?」
「……そこまで不幸じゃねーよ」
明日香の質問になげやりに答える。
「存在感がなさすぎるから気づかれなかったんじゃないのか?」
それはあるかもしれないな。
……でも、俺が昨日気にしたことをさらっと言うなよ、奏。
俺は苦笑して、
「そうかもな」
と返した。
「それよりも、お前らどうして起こしてくれなかったんだよ?」
俺たちは四人とも帰宅部で、しかも、俺、明日香、奏は同じクラスだから帰りも一緒のことが多い。
だから、俺は三人に昨日俺を置いて帰ったことを指摘した。
「……だって兄さん、何をしても起きなかったんだもん」
「百種類くらいの方法で起こそうと頑張ったんだけど、全然起きる気配がなくて……」
「二時間やっても起きなかったから、仕方なくお前を置いて帰ったんだよ」
そうかそうか、昨日目を覚ましたとき身体の節々が痛かったのは、やはりお前らのせいだったか……
「……で、どんな方法で起こそうとしたんだ?」
俺の声のトーンが落ちたせいか、聞いてはいけない質問だったのか、三人は顔を青くして、冷や汗も流していた。
「そ、それは聞かないほうがいいと思うよ」
明日香がかなり動揺しながら言う。
「……どうしてだ?」
「死人がでるわ」
「? 俺がショック死するのか?」
「ん、んー。まあそんなところ。まだ死にたくはないでしょ?」
「……そうだな」
明日香の恐ろしい笑顔を見て、俺はそう返事した。
世の中には知らないほうがいいこともあるってことだな……。
……まあ、大体予想はできるけど。
次へ
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俺が奈緒と共にエレベーターで、マンションのエントランスに下りると、昨日と同じように二人の男女が待っていた。
「おはよう。有貴。今日も眠そうな顔しているね。」
「また遅くまで本読んでいたんだろ? 続きが気になるのはわかるが、ほどほどにしないといつかぶっ倒れるぞ。」
この二人は同じ高校に通う俺の同級生、風見明日香と柏木奏だ。
二人とも俺と同じマンションに住んでいて、それぞれ俺の両隣に住んでいる。
ここのマンションの通路が若干狭いため、このエントランスが待ち合わせ場所になっているのだ。
明日香は小学生のときから同じ学校で、いわゆる「幼なじみ」ってやつだ。まあ、俺にとっては、ただの「腐れ縁」って言ったほうがしっくりくるのだが……
そして奏は、中学のときにここに引っ越してきたやつで、イケメンと称されてもおかしくないルックスをしている。
たまたま、俺と波長が合って、中学時代では一番の親友となった。
……たまに劣等感に苛まれることがあるが、できるだけ考えないようにしている。
俺、奏、明日香、奈緒と、この4人で学校へ行くのが4月からの俺たちの登校スタイルだ。
実際、今までこの4人で遊ぶことが多かったから、こうなるのは自然な流れだった。
「昨日は読む暇もなく寝たよ」
「へぇー、何かあったの?」
「……あまり言いたくない」
とてもアホな理由だしな。笑われるのは確実だ。
「兄さんね。昨日、終電に乗り損ねちゃったんだよ」
なんで言っちゃうかなぁ……
……っていうか、なんでお前が知っている?
「アハハハハハハ。有貴、久しぶりにやったね! 終了式のとき以来だったから、そろそろだろうと思っていたけど」
明日香が大笑いしている。
隣にいる奏もこらえきれずに笑っている。
「やっぱりお前は数ヶ月に一回は大失敗するんだな。でも、ある意味すごいよな、一定の周期で不幸に見舞われるって。……ひょっとしたら呪いなんじゃないのか?」
そうなのだ。
なぜか二、三ヶ月に一度不幸な出来事が俺の身に降りかかってくるのだ。
それを「呪い」のせいではないかと考えたこともあったが、結局わからずじまいだった。
奈緒も腹をおさえて笑いながら、
「……に、兄さん、そこまでして笑いを取る必要はないんだよ? 兄さんには他にいいところがいっぱいあるんだから」
と同情を込めた目で言ってきた。
「狙ってやってるわけじゃねーよ」
俺は嘆息して言った。
……ったく、俺はお笑い芸人じゃないっての……
そう考えながら、俺は学ランのポケットに手を入れた。そのポケットには昨日拾った例の石が入っている。
さっき、自分の部屋を出ようとしたときに、俺はふと思い出したように振り返って、机の上に置いてあった石を学ランのポケットに入れたのだ。
そうしなければいけない気がした。おそらく、昨日の夢があまりにリアルだったからだろう。
まあ、別に荷物になるというわけでもないから、特に支障もないだろう。
「それで、補導とかされなかった?」
「……そこまで不幸じゃねーよ」
明日香の質問になげやりに答える。
「存在感がなさすぎるから気づかれなかったんじゃないのか?」
それはあるかもしれないな。
……でも、俺が昨日気にしたことをさらっと言うなよ、奏。
俺は苦笑して、
「そうかもな」
と返した。
「それよりも、お前らどうして起こしてくれなかったんだよ?」
俺たちは四人とも帰宅部で、しかも、俺、明日香、奏は同じクラスだから帰りも一緒のことが多い。
だから、俺は三人に昨日俺を置いて帰ったことを指摘した。
「……だって兄さん、何をしても起きなかったんだもん」
「百種類くらいの方法で起こそうと頑張ったんだけど、全然起きる気配がなくて……」
「二時間やっても起きなかったから、仕方なくお前を置いて帰ったんだよ」
そうかそうか、昨日目を覚ましたとき身体の節々が痛かったのは、やはりお前らのせいだったか……
「……で、どんな方法で起こそうとしたんだ?」
俺の声のトーンが落ちたせいか、聞いてはいけない質問だったのか、三人は顔を青くして、冷や汗も流していた。
「そ、それは聞かないほうがいいと思うよ」
明日香がかなり動揺しながら言う。
「……どうしてだ?」
「死人がでるわ」
「? 俺がショック死するのか?」
「ん、んー。まあそんなところ。まだ死にたくはないでしょ?」
「……そうだな」
明日香の恐ろしい笑顔を見て、俺はそう返事した。
世の中には知らないほうがいいこともあるってことだな……。
……まあ、大体予想はできるけど。
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by yanagino-kiyohiko
| 2008-07-29 08:56
| 小説